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2018年7月 2日 (月)

テレビに映ったゲラから

ツィッターのタイムラインに、セブンルールというテレビ番組に校正・校閲者が取り上げられるという情報があった。テレビを持っていないので、オンデマンドで観ると、牟田郁子さんという校正・校閲者の仕事ぶりが紹介されていた。

書く仕事をしているため、校正・校閲の仕事は日常にあり、それほど珍しいものではない。
書き手にとってはなくてはならない存在であり、会う機会こそほとんどないけれど、ゲラに書き込まれた赤字に、校正・校閲者の顔が見えてくることすらある、身近な存在だ。

番組のなかで牟田さんが、大沢敏郎さんの『いきなおす、言葉』を手に取った。校正・校閲作業のなかで、参考となる書籍は片っ端から読むだろうから、なにが出てきてもおかしくはない。けれど、よりによって、大沢さんの本だ。
いったい彼女はいま、どんなゲラを校正・校閲しているのだろう、と画面に映し出されるゲラに目をやった。
すると、「寿識字学校」とか「長岡長一」という単語を見てとることができた。
これはいよいよ、このゲラが書籍になったときには、読まなければならない、と思った。

運のよいことに、牟田さんの連絡先を知ることができ、尋ねた。すると丁寧に教えてくださった。それが、『猫はしっぽでしゃべる』だった。
熊本にある橙書店の店主である方の書籍だと聞き、いったいどんな本なのだろう、と思った。須賀敦子の『コルシカ書店の仲間たち』のような本なのか、大沢さんのことは、どんな風に書いてあるのか、手に取り、ページをめくり、読み進め、たどり着くまでドキドキした。

故・大沢敏郎さんは、横浜の石川町駅近くにある大きなドヤ街真ん中で、寿識字学校というのをやっていた。
私はいまの仕事をする前、ユネスコの仕事をしており、識字教育の関係で大沢さんと知り合うようになった。私のいた職場の識字教育は、インドやネパール、バングラデシュ、タイ、カンボジア、アフリカなど識字率が低い国の教育支援であったが、日本国内にも存在する識字問題に触れる機会があったのだ。

寿識字学校に通ってきていた、長岡長一さんや梅沢小一さんの文章は、いまでもよく覚えている。圧倒されるものだった。ほかの人達の文章にも、いつも圧倒されていた。
彼らは、教育の機会を逸し、文字の読み書きに不便している大人たちだ。その彼らが書くつたない文章には、ものすごい力があった。
その力がどこから来るかは、ものすごく端的に言ってしまうと、書きたくても、書けなかった時間にためこんだ力であり、ほんとうに人に伝えたい気持ちなのだと思う。それは、並大抵の力ではなく、ほんとうに彼らの文章は、息をのむものだった。

そんな人たちの文章と、大沢さんはいつも丁寧に、そして真向から付き合っていた。
私のような者が、ときどき寿識字学校へ行き、彼らと一緒になって、作文をし、それこそくだらない、中味がなく薄っぺらい文章を書いても、それについても真剣に付き合ってくれた。

文章を書く動機付けとか、その根底に流れるものについて考えるとき、私は、寿識字学校のみんなと大沢さんのことを思い出す。
そして、彼らが書く文章を越えることは、一生できないのではないか、と思う。
書く仕事につまずいたとき、寿識字学校の文集『いきるちから』や、大沢さんの本を読み直そうと、いつも思っている。
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2018年6月18日 (月)

書評『バッグをザックに持ち替えて』

『バッグをザックに持ち替えて』(唯川恵著、光文社)の書評を、『山と溪谷』7月号に書いた。

「恋愛小説の騎手」と呼ばれる彼女が、登山について書いた3冊目の本であるエッセイ集。
ほかの2冊は、いずれも新聞小説を収録したもので、『一瞬でいい』と田部井淳子さんがモデルの『淳子のてっぺん』。

数年前にご縁をいただき(ということを編集部は知らずに、原稿依頼がきたのだけれど)、書き手としては雲の上の方。
私も、もう少しでよいから、上手に書きたかった。

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2018年6月 9日 (土)

梅雨の晴れ間の打ち合わせ

晴れた日こそ、山に登りたいのだけれど、うまく周期を合わせられず、気持ちよい天気の日に東京で仕事。
暑いけれど、朝夕は涼しい風が吹いたり、真夏よりは少しだけ空気が乾いていて、気持ちよい。

編集者と写真家さんにお会いした。
「山をテーマにした写真家で、好きな人は?」と聞かれ、即答したのは、展覧会があれば必ず足を運ぶようにしている方。「好き」とはとても言えないほど、惹かれる。

「どんな滑りの人が好きなの?」とも聞かれ、スキーについてまったく素人であることと、昨シーズン一緒に滑った人のなかで、という断りをつけて、でも即答したのは、半世紀も滑っているという方。
そういえば、先日、ある友人と話していたとき、彼も、「俺も好きだな」と言っていた。

好きに理由はなく、ただカッコいいと思ったり、惹かれたりするのだと思う。

でも、一見、「なんだろう? 不思議」と思うような滑りだったり、きっと上手な類には入らない滑りであっても、だんだんとよく見えてきたり、こっそり後をついていくと、気持ちよく滑れるときもあったりする。
そういう味わい方もあるのかもなあと、思ったり。

スキーや雪の写真にも詳しいおふたりと話すなかで、自然のなかで、山のなかで、色んな意味でその環境に見合った、調和した滑りをしている人は、やっぱりいいなあと思うのかもしれない。
23区にも、緑を通り抜けた風が吹く場所が、ときどきある。
そんなところで、夕方、少し涼しくなってきてからの、会話。
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2018年5月27日 (日)

下調べ

次のインタビューの下調べ中。
エベレストの探検時代やアルプスにアルピニズムが芽生えた頃の写真や映像をあらう。
そのなかで出会った、一葉の写真。ずっと前に手伝った書籍の表紙に使ったものだった。
奥付をみると、ちょうど20年前であることに、驚き。
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2018年5月26日 (土)

ビギナーズラック

所用を済ませ、そのまま帰宅する予定だったけれど、どうせ家に帰ってもざわざわと落ち着かいないとわかっていたこの日、最寄り駅近くの喫茶店に初めて入った。

こういう昔ながらの喫茶店でたのむものといったら、ソーダフロート。

締め切りまであと数日の書評の構成をまとめようと、もういちど本に目を通す。
原稿依頼のとき、編集者から送られてきた記事見本は、同じコーナーに友人が書いた書評だった。数号前のものを選んだだけで、執筆者が友人だったことに、とくに意味はないだろうけれど、思わず読んだ。そうしたら、ちょっと驚くようないい原稿だった。

執筆を職業としているわけではない。文章を書ける人であることはよく知っているが、いつもはいうなれば、優等生のような文章だ。
それが今回は違った。力強い文章だった。

びっくりして、思わずカトマンズに住む共通の友人に記事見本のpdfファイルを送った。ちょうど彼とのあいだに、メールが行き交っていたタイミングだということもあるが、カトマンズの友人は無類の本好きで、いつも日本語の本に飢えているからだ。
それが巡り巡って書評を書いた本人の耳に入った。当の本人は「オレ、なに書いたっけ?」だった。
どんなによかったか話しながら、だんだん褒めすぎな気もしてきた。
すると、「初めて書いた書評だからかなあ」と。なるほど、ビギナーズラックか。

コチラの原稿はいくら絞ってみても、ビギナーズラックである友人の原稿を越えることが出来そうになく、うなだれた。

いわば私も若い頃に初めて書いた本を越えることができない点は、いくつもあることに、先日また、気づかされたばかりだった。

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2018年5月23日 (水)

リアル世代の楽しみ方@大人の山登り入門

5/21発売『大人の山登り入門』(枻出版)、もうひとつのご紹介は「リアル世代の楽しみ方を知りたい!」と「私の山の楽しみ方」。
大人になってから登山を始めた方々に登場いただきました。


ご夫婦で登る新妻和重さんビクセンという天体望遠鏡など総合光学機器メーカー社長ですが、ご自身が御嶽山・五ノ池小屋で撮影した星空の写真が2点掲載されています。

私自身は新妻さんと一緒に、初秋の八瀬森山荘で星空を仰ぎ、秋真っただ中の入笠山で月を眺め続けた夜が、思い出深いです。


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ウィメンズ マウンテン アカデミーで仲間を得て「ヤマデミー」というグループを作った芝生かおりさんは、ヤマデミーのみんなと登場。私は講師・ガイド役5年程務めましたが、芝生さん達が初回の参加者。
記事を読んで、彼女たちの豊かな感性や知性にあらためて触れ、こちらがいただいたものの方がはるかに大きいと(これは新妻さん達含めすべて)、感謝しかありません。


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「楽しみ方」には、アドベンチャーガイズ勤務の宮川由佳さん。50歳を機にマッターホルンに登った話など。
いわば彼女は職種こそ違え、同業で働く同志のような存在ですが、つくづく惚れ惚れする登りっぷりです。

取材・ライティングは相馬由子さん。
うまく彼ら、彼女らの魅力を紹介できないので、ぜひ本誌をご覧ください。


ウィメンズ~の初回は、編集者の若菜晃子さんも講師でした。若菜さんには、「山を楽しむための書籍案内」に書いていただきました。
コチラのコーナーでは、星野秀樹さん(写真家)、渡辺佐智さん(登山ガイド)、黒田誠さん(国際山岳ガイド)、高桑信一さん(文筆家)、三好まき子さん(元古書店「みよし堂」店主)の文章も読めます。
若菜さんと三好さんにお願いしたのは私ですが、ほかの方々は、本誌編集担当の佐藤泰那さんの人選。


森山憲一さんのコラム「進化する山道具」の始まりは、「30年前と比してテント泊装備の重量は半分」。ゲラで読んだときから、同い年として思わず笑いました。

ハウツーは初級者向けですが、読み物コーナーは、多くの方々に楽しんでいただけると思います。
ぜひ、どうぞ。

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2018年5月22日 (火)

夫婦二人の初めてハイキング@『大人の山登り入門』

『大人の山登り入門』(枻出版)、昨日発売。
全体の監修とライティングを担当しました。
ライターは複数参加していますが、主だったページは、50歳トリオ(山本晃市森山憲一、柏澄子)が執筆。
アラフィフが山登りを始めるという内容なので、年齢的にはぴったりな。仕事の進め方も内容も三者三様なのは、言うまでもなく。

内容は多岐にわたりますが、2つのコーナーを紹介したいと思います。


ひとつ目は、「夫婦二人の初めてハイキングに密着!」

50代半ばのご夫婦に登場いただき、丹沢の端っこにある高取山・仏果山を縦走しました。
サーフィンと海釣りが大好きで年間100日は海に通う黒沢英喜さんと、読書に手芸とインドア派であり、山は小学校の富士山以来という黒沢英里さん。
おふたりが、山を味わっていく様子が、とても瑞々しく。
歳を重ねた方が新たなことを経験するとき、こんな風に智恵があって、だからこそ純粋なれるんだなあと、とても素敵な大人の趣味を見せてもらいました。
黒沢夫妻のコメントも載せています。


そんなお二人をガイドしてくれたのは、澤田実さん

取材に向かうクルマのなかで、英喜さんの海の話を聞き、「海、やってみたいんですよね。だって地球の70%が海でしょう」と。
帰路のクルマのなかでは、大学時代からの趣味である洞窟の話をずっとしていました。
山のなかでは、専門の鉱物や火山の話も。
澤田さんはいつも楽しそうに山に登っていて、穏やかで豊かで、今回のガイド役を澤田さんにお願いして、ほんとうによかったです。


ちなみに、20年以上前のコトでしょうか。ギター背負って小川山レイバック初登の顛末も、根掘り葉掘り聞いちゃいました。

ルートの途中で(あの比較的しっかりしたスタンスかな)歌ったのは、尾崎豊だったはず、と。


大人になってから、山登りを始めたいという方がお近くにいたら、ぜひ、お勧めください。

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2018年5月 8日 (火)

読む、待つ。

ここ数日は、一冊分の本を、ゲラの段階で何度も読み繰り返す仕事だ。
自分の原稿を書きながら、ほかの人が書いた文章を読み込む。

以前、泊りがけで自著を校了したことがあった。
校了紙を、編集者と一緒に読み込んでいく。
ひとつのテーブルに向かい合って座り、同時にそれぞれが読み進めていく。
気づいたことがあれば、声を掛け合うのだが、読むスピードも、読み込む質も、ベテラン編集者の彼と、私ではまったく違った。
編集者がもつべき資質のひとつ、読む力に圧倒された。
 
私の場合、初稿を読んでいるときは、あれこれ彼方此方に考えが飛ぶ。
それはそれで、よいのではないかと思っている。
最初は、目を大きく見開いて、アタマも空っぽにし、相手の文章を受け入れる。
その次からは、違う作業をする段階に入っていけばよいのだから。
 
「この人は、こんな文章も書くのか」と、ちょっとした驚きとともに嬉しさがこみあげ、同世代であり、仕事仲間でもある写真家の文章を読み入った。そして、その彼の著作を、思わず本棚から取り出す。いやいや、そんなことをしていては先に進まない、とゲラに戻る。
 
今日は、連絡待ちの日。なかなか時間が流れなかったから、こんな風に、文章を読み込む仕事の日で、よかったのかもしれない。
いい知らせが続いているので、このあとも、持ち分に戻ろう。じっと読み続け、そっと嬉しさを抱え込み。
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2018年3月24日 (土)

山岳遭難エマージェンシーBOOK 座談会「登山のカナメ、考えるチカラ

『山岳遭難エマージェンシーBOOK』(枻出版)
③座談会「登山のカナメ、考えるチカラ」

このタイトルで座談会するのも3回目。メンバーは毎回少しずつ変わっています。
今回は、黒田誠さん(国際山岳ガイド、写真家)、中村富士美さん(国際山岳看護師、WMAJ医療アドバイザー、山岳遭難行方不明者捜索をサポートする民間団体代表)、羽根田治さん(ライター)、柏澄子(司会)。

皆さんの発言は、ぜひ本文を読んでいただきたいのですが、キャッチに掲載した言葉を、ご紹介します。
「どんな事故にも教訓があり、そこには人の心の問題も深く関わる」(羽根田)
「失敗に寛容な社会でありたい。山は自由でなければおもしろくない」(黒田)
「登山者として自立すること、自分で考え判断できるのが大切」(中村)
「死んではすべてが終わってしまうが、そうではない失敗はしてもよい」(柏)
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山岳遭難エマージェンシーBOOK 山好き女子のあれこれお悩み相談室

『山岳遭難エマージェンシーBOOK』(枻出版)
②山好女子のあれこれお悩み相談室

「女性特有」と言われている悩みについて。けれど、じつはどれも男性も基本的には同じコトだと思います。
また、生理など女性特有の悩みについても、男性の山仲間にも知ってもらえれば、もっと相互理解が深まりそうです。

数年前、長期でヒマラヤ登山に行く前に、婦人科系の病気にかかり、症状がひどくなったことがありました。高所で登山をするには影響も大きかったため、病気の進行具合や症状、困っていることなど、チームのリーダーと幸運にもチーム内にいた婦人科ドクターに、病院の帰りにすぐに電話して相談したことが、ありました。ドクターはセカンドオピニオン含め色んなアドバイスをくれたし、リーダーの彼も、国内の準備山行の時から、私の体調に、さらに気を配ってくれました。
そんな風に、女性側も男性に理解してもらえるよう努めるのも大切だと思います。

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    現在、MJリンクのサポーターやテントむし山旅プロジェクトbyAdventureDivasのガイドなどで活動しておりますが、このほかに個人ガイドをご希望の方は、下記「メール送信」をクリックの上、お問い合わせください。内容など、ご相談の上、実施したいと思います。

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