ティンポの家族
ターメの奥、テシラプチャの手前にティンポ(4230m)という場所がある。春から秋の間だけヤクやゾプキョを放牧しており、バッティが1軒。そこが私たちのベースだった。
このバッティの家族がものすごく素敵で、私は花+鈴と別れたあと、バックキャラバンの日数を縮めてここに延泊した。
お父さんがアドベンチャー・コンサルタンツのキャップをかぶっていたので、これはなにやら?と思ったところ、案の定、ガイ・コッターと多くの仕事をし、エベレスト10回、K2などの登頂経験のあるシェルパだった。けれど、本人はそんなことをなんとも思っていない。
ある時、スコットランド人男性二人組が通りかかり、私に「ここは泊まれるのか?」「この宿をやっているのはどんな人か?」など聞くので簡単に説明したところ、立ち去るときに、わざわざ台所へ入ってきて、「エベレストのクライミングシェルパであるというご主人はどちらに?」と尋ね、握手をしていった。お父さんはきょとんとしていた。
かのアパ・シェルパの親戚筋であり、お父さんとお母さんのなれそめやこれまでのこと、3人の子供たちをどうやって育てているか、山以外の仕事についても具体的に聞いてみた。彼らの1日も見せてもらった。
そんなことに1日を費やそうと思い立ったのには、きっかけがあった。
当初、お父さんの経歴に興味があり簡単なインタビューを始めたところ、子どもの話題になった時にお母さんから強い視線が注がれたのだ。そうか、やっぱりこの家庭でも、子どもたちの将来について考え込んでいるのだと。それでお父さんだけでなく、お母さんの話も聞いてみようと思ったのだ。
とにもかくにも、お父さんがものすごく働き者だ。山の仕事から帰ってきたら、酒ばかりの人も見てきたが、ここまでの働き者のシェルパはそういない。そして、お母さんへの気遣いがとても優しい。そんな両親のもとで育ったから、二人の小さな息子もお母さんをとても大切にし、お父さんの仕事をしっかりと手伝うのだ(お姉ちゃんはカトマンズ在住)。
結婚を考えている女性は、こういう男性を選ぶべきだと、つくづく思うほど、心温かい人だったし、心温まる家族だった。
この家族のことは近いうちに、書くつもりで、本人達にも了承をとってきた。現代のシェルパたちが抱える問題も見え隠れしていた。
ところで、このバッティにあった藤沢周平の文庫本。6年前に日本人チームの彼らが置いていったものでしょうか。
*Facebookの思い出機能に、今日は旅情そそる投稿がふたつ出てきたので、ブログに載せました。
こちらのティンポの家族のことは、その後、WILDAEARNAESSという雑誌に書く機会がありました。
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