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2020年1月 2日 (木)

小屋番の定点観測

定点観測の面白さを教えてくれたのは、北穂だった。
北穂高小屋に2年間通い続けるなかで、常念山脈から日が出る位置が北から南へと動いていくこととか、ひと雨ひと雨ごとに紅葉が進むさまを実感した。
写真家の渡辺幸雄さんが入山時に、毎回ある位置から北穂高岳を同じ画角で撮影していたのを真似てみたりもした。
いっぺんにたくさんのことを知ろうとは思わない。その季節季節で出会うものがあり、回を重ねるごとに、少しずつ相手(自然と人間)を知るようになる。 それが、関係と作るということでもあった。

 

先月、七丈小屋に2回行く機会があった。
2年前から、ごくたまに手伝うだけだったけれど、これまでにどれぐらい滞在したのか、この機に数えてみた。その日数は一ヶ月をゆうに越えていた。大した日数ではないけれど、いつの間にか積もり積もっていた。
けれど、小屋にも山にも、私には「定点」が見いだせずにいた。それに出会ったのは、今夏。

 

あるクライマーが、黒戸尾根で一番好きだったという場所を教えてもらってから、そこが私の「定点」になった。
いろんなストーリーや見どころのある尾根だけれど、こんな穏やかな場所が一番好きだったのか……と、亡くなった彼とはもう話せないけれど、しっくりきた。

 

この2回の滞在で、小屋のスタッフの方々と一緒に過ごし、ゆっくり話をすることもできた。
彼らが「定点観測」している話が、アチコチにあった。
長い方でもたった3年といえばそれまでだけれど、それでも、心持ちひとつで、会うべく人に会い、出会うべく自然を見て、深く広い経験をしてきたのだなあと、心の底から敬服した。
と話すと、「それが、小屋番の醍醐味でしょ」と。
まったくだ。

 

「年越ししていきなよ。手伝ってよ」という言葉はありがたかったけれど、一刻も早く山を下りたかった。
もうこの先当分来ることはないだろうと、最後の黒戸尾根を味わいながらゆっくり下山。
クライマーの彼が好きだった「定点」には、変わらずに穏やかな日差しがあった。
ときに、モノゴトはぐちゃぐちゃになる。自分の予期せぬところで起きたことであっても、心は痛み、何よりも自分が情けなくなる。
けれど、穏やかな日差しをみて、山は変わらず素晴らしい、尾根は清々しいと、心が洗われた。

 

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