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2019年11月26日 (火)

言葉

文筆業の身で、記憶を言葉や文章でとどめることが多いことに、ある時気付いた。
山を歩きながら、その時の眺めや思いや感覚を、言葉や文章に置き換える瞬間がある。
これは職業病なのかもしれない、と少し残念に思った。
映像作家の友人は、画で記憶すると。写真家の友人は、言葉に懐疑的だ。
彼らのほうが、色眼鏡なくありのまま記憶するように思えて、羨ましい。

 

大菩薩嶺から小金沢連嶺を縦走するいちばんの楽しみは、富士山と南アルプスの眺望。
白峰三山や赤石・聖といった南部の山々から東に延びる尾根については、文章で表すことができた。
けれど、手前に見える甲斐駒ヶ岳については、ひとつの言葉で形容するしかない。
甲斐駒や剱のような山を見て、「カッコいい」というのは簡単なことだった。自分でもあきれるほど繰り返し、心からそう思ってつぶやくのだが、あんまりにも浅はかに思えてきた。
甲斐駒ヶ岳を形容する言葉について、今月の毎日新聞の連載に書かねばとつらつら考え、あずさのD席車窓から甲斐駒ヶ岳を眺めていた。
思いつき、書き記した言葉は、宇野浩二が「山の団十郎」と表現したことがヒントだったのかもしれない。

 

言葉に懐疑的な写真家の友人を思い出しながらも、手元にあった最果タヒの近著に救われた。
「一つの言葉が多くの人の心をつなげ、一つにするなんて、そんなホラーはないだろう。言葉は通じないものだ……でもそれが、人を、ひとりきりのままでも息ができるように、無数の人が行きかうこの場所で、息ができるようにしているのかもしれない」

 

多くの心をつなげるどころか、最も親しい人との間で交わされる言葉とて、通じないことが大半なのではないかって思う。他者を本当に知ることなんてできないし、それこそホラー。
けれど、人の孤独になにかを投げかけることはできるのかもしれないと思うと、文筆業も救われる。

 

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