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2018年2月

2018年2月28日 (水)

春が近づいて

季節の移り変わりというのは、その季節によって違うように思う。
 
夏になるのは、空気が入れ替わったその日の朝。
秋を感じるのも、乾いた空気に入れ替わった、その時。
冬の訪れは、徐々にやってくるように思う。
 
春が近づいてくるのも、だんだんと。
季節が行ったり来たりしながら、逆戻りの天気もあって。
 
雪国でも、雪が消え始めた土からフキノトウが出てきた。
天ぷらにして食べた。今年初の、苦味のある山菜の味だ。
日が長くなってきた。
北アルプスの稜線で風に吹かれると、それは寒いけれど、ひとたび谷に入ると、柔らかな日差しが届く。
けれど、まだまだ天から雪も降ってくる、それもまた嬉しくなる。
 
春のお告げが、あちこちから届き始めた日の朝、白湯に桜を漬けこんだ塩を落として飲んでみた。
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2018年2月18日 (日)

山書

ガイドに来てくださっているMさんが、facebookに、山口耀久さんの『北八ッ彷徨』を紹介していた。ある山小屋の方から勧められて、手に取ったと。
「私も、この本が好きです」とコメントすると、澄子さんはなんでも知っている、山の本をなんでも読んでいるようだ、というような返信をいただき、恥ずかしくなった。
 
私は知らないことだらけだし、山の本もちっとも読んでいない。ほんとうに読んでいる人たちを大勢知っている。それにじつは、積読も好きだったりする。
 
けれど、私の世代の少し上の先輩たちは、山口耀久さんをクライマーとして憧れただろうし、私自身も先輩たちの影響で、そんな文章も読んだ。そして、文芸的な面でもたいへんな恩恵をいただき、彼のおかげで、私たちは山の良書、よい文章をたくさん読む機会を得たのだ。『アルプ』しかり。
ちょっとだけ長く山をやっているだけで、そういうことがほんのちょっとだけあるだけ、たったそれだけのことだ。
 
今回、Mさんのfacebookの写真を見て、平凡社の定本のボックスに掲げられた文字は、深い緑色の活版で刷られたものであり、その緑色が北八ヶ岳のコメツガの色そのものであることを、あらためて知った。書名と著者名のあいだに、コメツガの針葉と松ぼっくりの絵も添えられている。
著者も素晴らしいが、これは装丁家の仕事も素晴らしいと思った。
そして、本棚から山口耀久さんの著書を取り出してみようと思い立った。
 
そんなきっかけを作ってくれたMさんに、感謝するのは私の方であり、良書は時を越えて、登山者たちの手に渡るのだろうなあと思った。
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2018年2月16日 (金)

山のガイド

先日、友人でもある山岳ガイドと、クライミングに行く機会があった。
仕事上、ガイドと山に登ることもある。しかしその目的の大半は、安全管理であり、そのなかで私たちが取材をしたり、撮影をしたりするというもの。
山岳ガイドの友人、仕事仲間と山に行くことも少なくない。が、それはガイドとクライアントではなく、仲間同士の登山、クライミング。
しかし、今回はちがった。
 
クライアントとしてガイドと一緒に登ったのは、初めての経験。そのガイドが、彼でほんとうによかった。ひょいっと降ってきたような機会だったけれど、貴重な時間となった。
 
色んなことを考え、感じることができた。
たとえば、リスクマネジメントについてどのように考えているのか。わざわざ語るわけではないが、一緒になったパーティとの接し方や装備の扱い方、アンカーの取り方、そのほかすべての言動から、それは知ることができる。
それらは、私が山に登る者として、具体的な学びがあるだけでなく、考え方も含めて今後の指針となる。
 
あるいは、山への取り組み方。
これまで仕事でもプライベートでも色んな場面をご一緒させてもらってきて、十分わかっていただろう、その姿勢を、登る場面でまざまざと感じることができるのは、幸せな機会なのだと思う。
クライミングだけでなく、アプローチもあわせた登山全体のなかでの、彼自身の動きを見て、言葉を聞くと、これまで辿ってきた道がうかがい知れるようであり、そしてまた、どんな山を、クライミングを志向してきたかが、強くわかる。
私も大好きな、共感できるセンス、憧れる志向性。
 
以前、山岳ガイド達をインタビューする連載をしたことがあった。
あるガイドをインタビューしたとき、たまたま彼のクライアントのなかに友人がいたので、「いったい、どんなガイディングをするの? どこが魅力なの?」と尋ねたことがあった。ガイドの彼も親しい友人であるが、友人がガイドをする姿を見たことがなかったので、いったいどんな顔をしているのか、知りたかったからだ。
クライアントに尋ねたことを、本人に言わないのもフェアじゃないと思い、報告もした。
そのとき、「アルピニストと一緒に登ることができる、幸せ」というような表現を、クライアントの彼女が使って話してくれた。「アルピニストと登る? そんな感覚になるの? どういう意味かなあ」と再び尋ねると、「ほんとうに山が好きなんだと、感じることができる」ともう一度説明してくれた。
 
その人が、「ほんとうに」山が好きで、そして自分のスタイル、志向をもっていて、それを感じ取ることができる、そんなガイドと登れたら、それは極上の経験となるだろうと、私も今回、実感できた。
 
私自身は、無雪期を中心にハイキングのガイドをするが、はたして、自分がもっている山の世界観を、お越しいただく方々に、感じとってもらうことができているのか、人に感じてもらえるほどのスタイルや志向を持っているのか、ということも考えた。そういうものがあるのが、いいガイドなのではないか、と。
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2018年2月11日 (日)

音楽、文学、友人

稜線が轟々と烈風吹きすさび、樹林帯に入ってくると、ほっと生き返ったような。
そんな山から逃げ帰り、ひとりでドライブしながら、音楽を聴く。
アルバムを選びながら、最近、ある友人と好む音楽が重なっているねと、ふたりで互いにそんな話をしたことを、思い出した。
女性歌手でいえば、ジョニー・ミッチェル、リッキー・リー・ジョーンズ、矢野顕子。私はそれに加えて、キャロル・キングにローラ・フィジィ、アナリス・モリセット、浜田真理子かな。
 
先週の山は、その彼女が運転する車で帰ってきた。
桑田佳祐が流れていて、私より少し若い友人が「若い頃は、この人の歌、ダメだったんだよね。最近、好きになった」と言う。サザンはいいけれど、桑田の歌は苦手だったと。
甘くも男っぽい桑田佳祐の声を聴きながら、「優しい歌なんじゃないかな」と、思わず言葉が出た。「そうか、優しいのか」と友人。「今まで、当たり前のわかりやすい優しさしか、気づかなかったよ」と。なんというタイトルのアルバムだったかわからなかったけれど、桑田の歌は、まぎれもなく優しかった。
 
寝る前に、ベッドの中で本を読む。『冷蔵庫の上の人生』。この本を勧めてくれた友人は、学生時代をバークレーで過ごした。英語の原作を読んだと。私は、迷うことなく日本語訳を手に取った。
なかなか、私にとっては辛い内容だけれど、そこにも優しさがあった。
 
気づかなかった優しさ。
ものすごく辛いときや悲しいときに、言葉をかけてくれた人たちのことを、人は忘れない。
その言葉ひとつひとつも、そのときのシーンも、声の色も、相手の表情も忘れない。
そんななかに、気づかなかった優しさがあったことに、ようやく気付いた。
 
「柏さんが、これ以上無駄な人生を送らないことに、乾杯」。
びっくりする言葉。え? 私の今までの人生は、無駄だったのか? ちょっと解せない言葉に、しばし考えこみ、その後も時あるごとに考えこんだ。
それが先日、あるひょんなことがきっかけで、「ああ、ひょっとしたら、ああいう意味だったのかもしれない」と思い至った。ま、今回の理解もあっているのかは、わからないし、何よりも言葉を発した当人はもう覚えていないことだろうけれど。
それでも、人の優しさは、いろんなところにある。
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2018年2月10日 (土)

胸の奥に沁みる味

白馬でスキーを終えたあと、小谷村へ行った。
まずは友人達と、あるレストランへ。ひょんな流れで、「今日の昼はここで食べよう」という話になったのだが、その思いがけない出会いに、びっくりした。
とても美味しい。そしてシェフが着ていた、シェフコートに山並みが刺繍されていたので、尋ねてみたところ、岳人たちとの交遊がたくさんあることを知った。シェフの話に登場する方々は、山と文学、山とツアースキー、山と写真、山と釣りなどの趣味をもっている方々で、私も旧知の方もいらっしゃれば、お名前だけ存じ上げている大先輩たちも。
 
世界各地で修行したあと、故郷小谷でレストランを営もうと戻ってきた、と。
そして、北アルプスの山麓で、料理を通じて、地元に貢献しようと努めていらっしゃった。
あっさりしたフレンチは普段使い、毎日でも食べたい味であり、美味しいというだけでなく、それ以上に胸の奥底に沁みた。
 
その後、友人達と別れ、さおちゃんの家に向かった。初めて訪ねる彼女の家は、とっても大きな古い日本家屋で、道路から玄関まで背丈以上の雪が積もり、ラッセルしないとたどり着けなかった。こんな大きな家に、ひとりで住んでいる女性を、私は知らない。
 
彼女を知る誰もが、「さおの料理が食べたい」「さおの料理は旨い」と口々に言う。
 
そんな彼女が、料理を作って待っていてくれた。
南瓜のスープと、マフィンを使ったピザ、そしてキャベツと人参のサラダだ。
どれも、ものすごく美味しい。ピザには胡桃が入っていた。サラダになんとなく「和風」の風味があると思い聞いてみると、塩麹を混ぜたという。
 
職業柄、予算内でスーパーで売っている食材を買い求め、大人数に向けて、手際よく作ることに慣れている。とはいえ、彼女の作るご飯は、なんでこんなに美味しく、胸の奥底まで沁みるのだろう……といつも、思う。
食べてくれる人が、その日にどんなことをしたか(身体をたくさん動かしたとか、机上でアタマを使ったとか)を考えながら作る、とも言っていた。
 
翌朝、友人宅にて。「スミちゃんが好きな朝ご飯だと思うよー」と出してくれたのは、味噌汁とお握りと漬け物だった。
 
味噌汁は、鰹と昆布で出汁をとり、シンプルな構造の味の赤味噌。三つ葉とオホーツク産だという素干しの海苔。なんと表現していよいか、その言葉を持ち合わせていないけれど、ものすごく美味しかった。
友人は「いただきものの赤味噌がいい仕事をしてくれただけ」と言うが、それだけではない。
 
そしてまた、塩味だけのお握りが、ふわっとしていて、なんとも美味しいのだ。
だいたい、お握りを軽やかに握る姿をみたときから、これは美味しいにちがいないって思っていた。
 
私が、あんまりに「美味しい、美味しい」を連呼するから、笑っていた。
笑われたけれど、それは本当で、美味しいだけでなく、この朝ご飯と、朝ご飯を作ってくれた彼女と、彼女と過ごしたいろんな時間に感謝したくなるような、胸の奥底まで染み入っていく味なのだ。
 
料理上手とか、ただ美味しいとかというのとは違う味が、彼らの料理にはある。
食べるとほんとうに、「ああ、美味しい」と思わず言葉がもれ、そしてしみじみと心が温かくなる、そんな料理。
さおちゃんがお土産にもたせてくれた蒸しパンは、その晩、みんなでワインを飲んだときに食べた。干し柿は、まだ残っているので来週の山に持っていこうと思う。
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2018年2月 2日 (金)

平出和也さん SUUNTOインタビュー

登山家・映像カメラマンの平出和也さんをインタビューし、スウェーデンの時計メーカーSUUNTOのwebサイトに掲載していただいた。

平出さんは、SUUNTOという時計との出会い、山のなかで、旅先で時計とどんな付き合いをしているか。そしてこの夏のトライについても語ってくれた

彼と知り合って15年以上経つけれど、昨年は平出さんを3回インタビューする機会に恵まれた。
昨年2月、冬の八ヶ岳で久しぶりに会って一緒に登ったとき、なんて潔い人なんだろうと思った。成長、変容、成熟していく姿を、時を経て書かせてもらえることは、まったくライター冥利に尽きる。
 

記事内の写真は、平出さんのクライミングパートナーでもある 中島 健郎 さんが撮影。
以下は取材の一コマ、私が撮った写真。

SUUNTOのインタビューは
ひとつ前のインタビュー「15年目、4度目の夏、シスパーレ北東壁初登攀」については、

もうひとつ前のインタビュー「人はなぜ山に登るのか、山と対峙する試み」は、

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野外救急法×国内法

先日、早川修弁護士を迎えた勉強会「「WMA(ウィルダネス メディカル アソシエーツ)医療プロトコル」の法的な懸念についての見解」に参加してきた。
これまで、野外救急法と国内法の勉強会には早川弁護士ふくめ何度か参加していたが、今日は現段階での総仕上げとなるような内容だった。むろん、この先社会も変わるし、何がしかの判例が出てくるかもしれない。それに応じてコトは変化していくが、軸となるものは出来上がりつつある。

先般、ウィルダネス メディカル アソシエーツ ジャパンが早川弁護士の監修を受けて「「WMA医療プロトコル」についての法的な懸念についての見解」を発表したが、その裏付けとなった法的根拠、解釈の詳細、今後の展望などについて、話された。
また、法的見地からみても、医療的アドバイザーが野外救急法の団体にとって重要であることや、早川弁護士から、「今度はあなたたちです」と、我々に課せられたことなど、どれも貴重な話だった。
参加者はガイド、アウトドア愛好者、医療従事者、消防、警察、自衛隊、山岳救助隊、多国籍軍従軍者、メディアなど。北海道から屋久島まで、全国から30人が集まった。
今回は、MWAJ受講履歴のある方々が対象となったが、今後こういったトピックが、もっと広く話し合われ、検証されるようになっていくのだと思う。

2018年2月 1日 (木)

MJリンク新春ハイク+初詣

先月の21日、MJリンクの企画で新春ハイク+初詣へと、奥多摩の御岳へ出かけた。
ルートは、古里駅から歩き大塚山経由で御岳へ。
私にとっては、2010年にMJ呼びかけ人の田部井さんと故新井和也カメと取材で登った思い出のコースだった。
 
この時のことを『田部井淳子のはじめる!山ガール』に掲載した。
ある新聞記者の調査によると、「山ガール」という言葉が書籍タイトルに初めて使われたのがこの本のようで、それ以前は新聞や雑誌本文のみという。
なんで彼がそんなことをと調べたかというと、その年、「流行語大賞」にノミネートされたからだ。
結局、「山ガール」という言葉はノミネートに終わり、大賞を受賞することはなかったけれど、もし受賞していたら、表彰台に立ったのは、そのブームを牽引した人のように周囲が見ていてた田部井さんだったのか、それともこのタイトルに決めたNHK出版の編集長だったのか。
 
その年配の編集長とは、前述の山ガールの本を含め2冊を一緒に作ったが、昔気質の山ヤさんだった。そんな彼と、取材の山々をご一緒するのが、私はとっても楽しかった。そして彼が女性の登山ブームに関心を持つようになるまであちこちご一緒できたことが、いま振り返っても嬉しい。
「山ガール」というブームのトピックを取り上げながら、落ち着いた本に仕上げることができたのは、彼のような「錨」となってくれる方がいたからだと、とても感謝している。

さて、MJリンクのハイキング後は御岳神社本殿にて安全登山の祈祷をしていただいた。田部井さん不在に少し慣れてきたつもりだけれど、とても清々しい空気のなか、お榊をお供えするときは緊張した。
MJリンクの登山は、今回のハイキングで51回目。0回や4回の海外や番外編や10回のサロンなどあって、かれこれ70回近く開催してきたんだなあと振り返りました。今年は、去年以上に機会を増やしたい。
 
詳しい様子は、以下に。
・サポーターの直原郁子さんがMJリンクブログにUP
・サポーターの大久保由美子さんのfacebook
・ゲスト参加の田部井進也さんのfacebook

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