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2017年8月 3日 (木)

小屋番の夏ひる飯

かつて、北穂高小屋に通ったことがあった。取材である。
編集部から依頼されたのではなく、自分で始めた取材であり、1シーズン通い終えた頃に、連載の目途がたち、2シーズン、4月21日の小屋開け入山から11月4日の小屋締めまで、毎月通った。「小屋開けに女性を入れたコトはないんですよね」と、主人から言われたことから取材は始まり……ときは流れた。
 
取材中は、努めて距離を保っていた。あくまで取材対象と取材者だと思っていたし。
でも、振り返ると、心を通わせたことは多々あった。「これが小屋番の岩登り」は、そんなひとつ。
 
大好きだったくせに、取材を終えると、通う理由、言い訳、言い分、建前をなくし、途方にくれたりもした。それでも、ときどき顔を見せていたが、あるとき、小屋の主人であるよっちゃんから「理由がなくても、来るのが山でしょ」と言われ、長年番頭を務めてきた足立さんから、「どんなに少なくとも、年に1回は来るように」と言われ、泣きそうになった。
 
職業柄、いろんな山小屋に泊まるし、山小屋の主人やスタッフ達と知り合う機会も少なくない。けれど、身内のように過ごせるのは、北穂高小屋だけだし、それでよいと思っている。
 
今年、友人が山小屋の管理人を始めた。
北穂高小屋のように近しい小屋が、ほかにできるとは思っていなかったけれど、先月、初めて遊びに行った。手伝うという名目があったけれど、実際に行ってみると、私がいなくたって何とかなる客数だった。
今月、二度目の訪問をした。取材のあと、2日間ほど居残ったのだ。あいにくの天気で、荷揚げのヘリも飛ばず、私がいなくても、なんともないような仕事量だった。
 
小屋番をしている、ヅメさんが、二度目の昼食に作ってくれたのは、そうめんだった。
「今日の昼は、そうめんにするわ」と彼が言ったとき、北穂の稲庭うどんを思い出した。
夏になると、5回ぐらいは、稲庭うどんの釜あげを昼ご飯にする日がある。
長ネギや紫蘇、茗荷などの薬味を千切りにし、頃合いよく茹で上がった稲庭うどんを、スタッフみんなで食べる。
なぜだかその日は、いつも以上にみんな興奮し、寸胴鍋に茹で上がった稲庭うどんをすくいあげるために、椅子から立ったまま、食卓を囲んだりもした。
そんな北穂高小屋での時間を思い出していると、ヅメさんのそうめんができあがった。
 
「麺類は、茹で具合に気を配り、緊張するよね」と、彼が言う。
長年、小屋番をつとめ、まかないも客飯も作りなれている、料理上手の彼が言うのだから、心にしみる。
食べる相手がいてこその料理、という話をヅメさんとしたばかりだけれど、茹で上がりについて、そこまで気を配るのもまた、相手への思いやりだ。

はたして出来上がったのは、錦糸卵、かにかま、キュウリ、油揚げ、ネギ、茗荷が千切りされて山盛りのっかった、ぶっかけそうめんだった。豪華、豪華。
バイトに来ている、食べ盛りのシオが、「すげえ」と言って、バクバク食べ始めた。
北穂の稲庭うどんに、七丈のそうめん。
夏のメニューとはいえ、半袖ではうすら寒く、長袖がちょうどよい山の上。だというのに、なんでこんなにテンションが上がるんだ?
ちょっと考えて、思い至った。涼し気な山の上にいても、やっぱりそこは夏。夏を感じたいから、小屋番たちも、夏の昼ごはんを食べるんだな。夏の山小屋、風物詩。
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コメント

ありがとう!
学生のころから個人で行く山は、テントが多いけれど、この仕事(書く、ガイドする)をするようになって、山小屋に泊まる機会も増えました~。
海外の山小屋もそれぞれ風土色あって、おもしろい~!

澄子ちゃんの山小屋記読みたーい
素朴、質素なところから豪華なところまで
それか登山飯記もいいな
美味しい缶詰から本気のディナーまで

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