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2017年1月19日 (木)

言葉

朝日新聞の近藤幸夫記者が書いた「登山の魅力 語り続けた責任感  登山家 田部井淳子さん」という記事に感銘を受けた。
2017年1月14日夕刊、「惜別」というコーナーに掲載されたものだ。

その日、田部井淳子さんが呼びかけ人となって2009年に始めた20~40代女性向けの登山サークル「MJリンク」の新春登山があった。田部井さんの夫である政伸さんらも参加してくれ、雪のある丹沢を歩き、大山を参拝し、下山後は丹沢名物の豆腐屋さんで、みなで食事をした。政伸さんを囲んで和やかに話をし、そして最後は涙ながらも、みんなで田部井さんの思い出話をした。
その時、タベイ企画の吉田三菜子さんから、「今日の夕刊に田部井さんの追悼記事が載る」と案内があったので、帰り道にキオスクで買い求めたのだ。

けっして派手ではない。けれどこの記事のなにに心が惹かれたのかわからないまま、知人でもあり書き手として先輩でもある、近藤さんにメールをした。ほんとうは電話して話したいぐらいだったけれど夜遅い時間になってしまったので、メールにしたのだ。
するとすぐに、近藤さんから電話がかかってきた。
この業界では、弾丸トークで有名な近藤さんだ。翌日の登山の準備もしたく、深夜の電話ではいったい何時になってしまうのだろうと思ったけれど、とっても嬉しかった。
取材の話をしたり、田部井さんの思い出話をしたりした。
近藤さんは数年前から、デスクを退き長野支局、松本支局と渡り歩いている。
現場最優先の記者である立場を貫いている。これぞというときにきっちりと紙面をとって、記事を書く姿は、やっぱりこれまでに相当のことを積み重ねてきたのだなあと思わせる。

「惜別」の思いを書き表すだけでなく、近藤さん自身が持ちうる座標軸をもって、登山家・田部井淳子の人生を描き表したのだなあと、到底いまの私にはできない仕事だなあと、そんなことを言うこと自体、生意気ながらにも思った。

今回の記事のタイトルに、「責任感」という言葉がある。この言葉について近藤さんと話すなかで、やっとわかった。「責任感」というのは一般的な言葉であるが、田部井さんの人生を語るときにこの言葉を選び書き表すに至るまでに、相応の取材と熟考と執筆を重ねているのだ。たとえ一般的な言葉であっても、ひとつの言葉にたどり着くまでに、書き手が重ねたものが濃ければ濃いほど、その言葉は活きてくる。
しかしその言葉の意味や、重要性、価値に気づく人がどれだけいるだろうか。
私は、こうやって書き手がたどり着いた言葉は、その書き手のものであり、おいそれと、それに手を出せないと思っている。

ちょっと前、私が取材を繰り返すなかで思いつき、書いたある言葉があった。
ひとりのアルパインクライマーを称した言葉だ。成熟する域に達し、登り続けているアルパインクライマーだ。けれど、その言葉はいとも簡単に、広報で使われた。そういうのをみると、言葉を大切にしない、他者の仕事を大切にしない人もいることを、とても残念に悲しく思った。

書き手が苦心してたどり着いた言葉は、ほんとうに価値があると思うし、ひょっとしたらいとも簡単に使われた私の言葉には、まだまだ価値がなかったのかもしれないとも思った。
年が明けてから、2回も松本に行きながら、松本支局で働く近藤さんに連絡をしなかったことを、「なんだ、それ。来ているなら電話ぐらいしてよ」と、近藤さんは言った。彼の優しさだ。
そうだな、次の訪問のときはお会いして、一緒に田部井さんの話をたくさんしよう。


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