覚えていてくれたこと
長年お世話になった方が退職されるということで、ご挨拶をいただいた。
これからはフリーで働くというので、またすぐにフィールドで会えるだろうけれど、社のかなめのような方だったので、退職はやっぱり寂しい。
お便りのなかに、ずっと前に私が書いた原稿について、厳しくモノを言ったことを後悔していると、お詫びの一文があった。
正確には覚えていないが、10年以上前のことである。
月刊の山岳雑誌は、5冊以上あるだろうし、増刊号や季刊、それから一般の雑誌と併せると、彼の会社の商品が掲載される雑誌は、毎月10冊近くは発売されるのではないかと想像する。
ほかにもメディア取材は多々あるだろうし、第一、メディア対応だけが広報部の仕事ではなく、社の顔として多くの人に接する、多忙きわまる職にあったはずだ。
そんな彼が、10年以上前のことを覚えていてくれたその誠実さに、ただただ感謝。また、指摘いただいたのは、もっともな内容であり、こちらこがありがたく思う経験だった。
原稿を書くなかで、ときどきインタビュイーなど関係の方々との間に齟齬が生じることがある。そのほとんどは、記事を作る過程のなかで解決できる内容であるが、私には2度、掲載を見合わせた経験がある。
(その手前で、取材を中断したものは、もっとたくさんあるが、これはマジメに仕事をしていれば、誰でもそうだろう。取材したもの、書いたものが全部形になるわけがない)
未掲載のひとつは非常に苦い経験であり、もうひとつはとてもたいへんな思いをした。
いずれもひょっとしたら、掲載になった記事よりもよく覚えているかもしれない。
とまれ、今回の退職の際にいただいたお便りは、ほんとうに心温まるもので、感謝し、またこれからもお付き合いいただけることに、とても嬉しくなった。私も彼のように、誠実でありたい。
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