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2015年11月

2015年11月26日 (木)

『岳人』12月号 ノルウェーの旅

『岳人』12月号(11/15発売)に、ノルウェーにあるスキーを履いた人を描いた古代の岩絵や、スキー博物館を訪ねた旅の様子を書きました。

 


9年前に初めて春のノルウェーへ行き、スンメルアルプスの山々を登っては滑り登っては滑りを繰り返したのが、初めての出会い。

 

人と人に相性があるように、人と土地にも相性があると思っています。当時からたまらなく好きだったのがチベット文化圏の土地。だから、それと同じぐらい好きな土地に再び出会えるとは思ってもいなかったです。
なにがどう好きなのか考えるのですが、言葉になりません。

 

あの果てしいない静寂も、平和的な風景も、鏡のようなフィヨルドと雪の山も、今年のトゥロの島で見た林床いちめんにイチリンソウが咲き誇るさまも、また人々の慎ましやかな暮らしも、不便なことって豊かなんだと思わせる温かみある日常も、ぜんぶ好きです。
フィヨルドを船で渡るのも大好きです。
船から派生する波が、永遠に交わることなく二手に分かれていく様を、スキーの帰りの船でも、旅の途次の船でもいつもじっと眺めています。

 

 

 

優しい雰囲気の写真を添えてくださったのは、黒田誠さん です。雪のないノルウェーの旅にお付き合いくださいました。
そして、私にノルウェーの豊かさを教えてくれた日本とノルウェーの友人たちにも、心から感謝しています。

 


*ヒマラヤのベースキャンプやバックキャラバンの最中に、読後の感想を送ってくださった皆さん、ありがとうございました。

 

 

 

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『山と溪谷』12月号 田部井淳子さんエベレスト登頂40周年

11月15日発売の『山と溪谷』12月号に、田部井淳子さんがエベレスト登頂40年目にカトマンズで開いた感謝の会の模様と、それに合わせてとったインタビューを載せました。

 

 

 

田部井さんと一緒に本を作ったり、MJリンクをやったりとくによく仕事でご一緒するようになって10年近くになります。何度もインタビューしてきたけれど、失礼承知で今回は投げかけてみました。「その後の生き方が、難しかったのではないか」と。

 

 

 

自分の信念を貫き、好奇心のおもむくままに大胆に生きているように見える彼女も、周囲の声が気になったり、臆病になったりすることが多々あったと。「吹っ切れるときが来るのよ」という言葉には、たくさんの気持ちが含まれているのだと感じました。

 

 

 


写真は、エベレスト登頂をデザインしたお祝いのケーキ。この日は、田部井さんの誕生日でもあり、サプライズのお祝いがありました!

 

 

2015年11月22日 (日)

『はじめての雪山BOOK』発売

モデルの仲川希良さんの書籍『はじめての雪山BOOK』が、先月末に発売になりました!
希良さんが2シーズンほどかけて、山岳ガイドの天野和明さんと歩き経験した雪山登山の様子が収録されています。
いくつかのページの執筆と、以前『ランドネ』に載せた希良さんとの対談(というほどかしこまったものではなく、小さなおしゃべりページ)の再録など、私もこの本に参加しました。

ハウツーとして役立つだけでなく、希良さんがどんな風に雪の山を感じ、楽しみ、自分の中に取り込んでいくかその”キラキラ”した感性にも触れることができると思います!

私も完成品をまだ拝見しておらず、手に取るのは少し先の帰国後になりますが、いくつもの山をご一緒した時の新鮮な驚きや愉しさを、再び味わえるのではないかと楽しみにしています。

ぜひ、本屋さんで探してみてください!

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2015年11月 7日 (土)

ベースキャンプでのトランプゲーム  ~“大富豪”と“ナポレオン”編/花谷泰広

誰もが認める安定した強さを見せるのは、カマちゃん。彼は普段から。理知的でそのなかに芸術性のある顔をのぞかせる人間だ。かといってとっつきにくいのではなく、くったくなくよく笑う。

 

 しかし、トランプゲームではそんなあどけなさは、隠れてしまう。手持ちのカードを効率よく組み立て、かつ相手の出方をよく観察し記憶している。まあ、それはゲームの王道であり、私だってそうすればよいことぐらいわかる。けれど人間というのは甘いもので、ついつい「まあどうにかなる」など思い、詰めきれずにいるのだ。

 

 余談になるが、カマちゃんはどことなく、あるひとりのクライマーに似ているというのがハナと私の共通見解だ。ちょっとした所作や表情、くったくなく笑うタイミング。しかしトランプをやってわかった。モノゴトの詰め方も似ている。文章も写真表現も秀逸で、人知れぬシリアスクライミングを実践してきた彼を彷彿させる雰囲気ある。

 

 カマちゃんにはまるで、将棋において鮮やかに駒を詰めたとき、その道筋にあるような柔軟な思考と途切れない集中力と、じわりじわりと攻め寄る姿がある。むろん、登山においても同様。

 

 シオの強さは、また違う。豪快にカードを切っていく。それはまるで山で見せる彼の強さと同じだ。たとえばC1への荷揚げ。圧倒的に他者を引き離していく。「スイッチが入っちゃったんです」と言うが、スイッチを入れるときが違うのではないか、本番でほんとうのスイッチを入れられるのだろうかと心配になるほど、彼の背中はあっという間に小さくなり、彼方へ消えていく。そのスピードとボッカ力は、ちょっと考えられないほどで、私の手元の物差しでは、測りきれなかった。

 

 しかしあるときは、ミョーにおとなしかったりもする。「どうしたの?」と聞くと、「自分のペースにもっていけない」のだという。そういうときは、じっと耐えているしぶとさもある。

 

 出すカードを間違えたときや、読みが甘かったと気づいたときには、「しまった」という顔をして、頭をかき苦笑いする。こっちがハラハラするほど正直だ。これもまた、彼らしい。シオは山に対しても、人間に対しても、まっすぐで濁りがない。

 

 榊原ドクターは、普段、理論性と創造性をもって仕事をしているはずだ。彼の領域は、人の生に直接的に深く関わる。そのなかで理詰めだけでは診察も治療もできまい。想像力とクリエイティブな発想が必要なはずだ。

 

 しかしながら、トランプゲームで起きる些細な出来事は、かえって彼を悩ませるらしい。いつも、「困った」とか「勝てる気がしない」とかため息交じりで手元の札を眺めている。それでも切るカードが、「あれ?」「えっ?」というような驚きに満ちているときがあり、彼の頭の中をのぞいてみたくなる。

 

 私はというと、のらりくらりと。ある程度の定石を踏み、ときにはチャンスとはいえないほどの小さなきっかけをつかみ、大胆になる。

 

 そして最後のひとり。大概、私の左隣に座っている彼だ。「業界一トランプが弱い」というのは、本当だった。弁護の余地はない。

 

 ほかの4人が常に勝っているというわけではなく、彼がいつも大貧民というわけでもない。むしろ、その回数は少ないかもしれない。4人は大富豪になったり富豪になったり、ときに貧民層に落ちたりするのだ。つまり勝つときは勝つのだ。比して彼は、平民と貧民あたりを行ったりきたりしている。容赦なくいえば、そういうのを「弱い」と言うのだと思う。勝てないのだ。

 

 なぜ弱いのか、よくわからない。ときに、びっくりするようなタイミングで強気のカードを出してくるので、こっちが行く先を心配になる。あるとき、私はとっくにあがっていたので、残りのカードをのぞいてみた。絶望的だった。通常、「よーし、いくぞ」と言って切り札を出したあとには、それに続く勝負への方程式が組み立てられているはずだ。勝どころか、負への道筋すら見えないようなカードしか残されていなかった。彼は、「よーし、いくぞ」という言葉の使い方を間違っているのかもしれない、とも考えてみた。あるいはそういうセリフをはいて、周囲をもりあげようという心遣い、またはお祭り気質があるのかもしれないとも。わからない。

 

 だから、あるカード交換のとき、私は飛び切りのカードを彼に渡した。“クローバーの3”ではあるが、絵柄はジャヌーだ。これほどかっこいい山はそうあるまい。そう、このトランプは、松田くんと一緒にナムチェのお土産物屋を訪ねて買ったのだ。ネパールの秀峰の写真が、一枚一枚描かれている。

 

 標高4800メートルのベースキャンプで、圧倒的にほかのメンバーよりもSPO2値も心拍数も好数値だ。頭脳に酸素がいきわたっているはずである。それでも勝てない。

 

 けれど、もういい。

 

 ベース生活はのんびり本を読んだり、音楽を聴いたり、ポカポカ陽が差すなかわずかな水を使って洗髪や洗濯にいそしんだりするのどかな時間だ。しかし、そのレストが続き、天気のサイクルが巡ってこないと、次のタイミングがつかめずに、みながそれぞれ、時間やエネルギーや気持ちの持っていく先を探す。

 

 今日でハイキャンプから戻ってきて、3日目になる。歳を重ね体力が衰えた私ですら、「十分にレストした」「ゴーアップするなら、いまだ」というほど、元気である。若くて果てしないほどの体力がある彼らにとっては、いろんなことがもてあまし気味だろう。その非効率性が、ヒマラヤ登山の一片だとしても。

 

 早くサミットプッシュしたい、登りたい、けれどここで焦ってはだめだ。そんなとき、「まあ、トランプでもやろうよ」と言い出すのは、まぎれもなくチームでいちばんトランプが弱い彼だ。

 

 そして夜が更け、「これをラストゲームにしよう」といって、盛り上がる。しかし最後まで勝敗結果に変わり映えはない。それに私が大笑いすると、やや悔しげに「さ、早く寝よう。帰るよ、帰るよ」と周囲を急かして、ヘッドランプをともしてダイニングテントから出て行く。あとは歯を磨き、お湯の入った魔法瓶を枕元に置いてシュラフにもぐりこむだけだ。

 

 トランプは弱くてもいい。いつまでも、強い山ヤでいてほしい。

 

 

 

追記*

 

 サミットプッシュに出る日を1ずらした昨日は、“ナポレオン”に明け暮れた。メルーのベースでは、朝起きたときからナポレオンが始まっていたというし、「業界一トランプが弱い男」のレッテルを貼られるきっかけになったゲームだろう。

 

 「人のことは言えないよ」とどつかれそうであるが、このゲームでもまた、彼らしさが露呈した。正直すぎるのか、芝居が打てないのか。私がナポレオンで彼が副官のときも、すぐに態度に出た。切る札の内容だけでなく、言葉の端々で、「俺だ、俺が見方だ」と言っているかのようだった。それじゃあ、みんなにもばれちゃうでしょうと私は心中苦笑い。

 

 私の持論だが、一流アスリートというのは共通して、強い信念(自分の才能を信じる力)、飛びぬけた集中力、抜群のバランス能力などと合わせて、繊細でチャーミングな面も持ち合わせている。仕事柄そんな顔を、クライマーはもちろん、ほかの競技者にもみてきた。

 

 トランプゲームのなかでみせる愛らしさも、そんなアスリートの横顔だろうか。

 

 えてして、自信家(よくいえばポジティブ思考の強い人間)といわれがちであるが、じつは繊細な面ももっているのが、花谷泰広だ。

 

 今回、キャラバン中に気管支炎になりナムチェからヘリコプターを手配し、カトマンズに下山し、入院した。入院先のベッドと数えきれないほど電話で話したが、何回か弱気な言葉を吐いた。私は最後、思わず電話口で言った。「なにをいまさら言っているの? もっと図太くなりなよ」と。その私の言葉をどう受け取ったかはわからないが、ほかのメンバーよりも1週間遅れてベースキャンプに入ってきた。それは、「図太くなれ」と言ったのを取り消したいほど、タフな姿だった。

 

 チャーミングで繊細な面は、勝負時に弱みにもなりかねない。けれど、人から愛され、そこに人間性がある。図太さとチャーミングで繊細な顔をもって、山に向かっていきました。

 

 

 

 

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